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スウェーデンにおいて、子どもをつくることによる生活水準の低下は、すべての人に対してほぼ同じ程度にもたらされる。しかしアメリカでは、教育水準が高く、賃金の高い層に対して生活水準の切り下げが最も強いられるものである(最も、低賃金の有子家庭の経済水準と比較できるものではないが)。
アメリカの家族政策は、結果的に貧困問題を社会につくり出すという否定的な影響の指摘をする動きもある。つまり、家族政策の道徳的ジレンマといえよう。それに対して、スウェーデンは、子どものニーズを社会のモラルよりもたえず優先してきたとWennemo(1996)は断言する。
Wennemoは、アメリカは社会政策学者が警告した通りに、選別的家族政策によって高い母子家庭率と離婚率を生みだし、それらの要因によって生み出された貧困に対して、今まで以上に選別的な政策に向かいつつあることを指摘する。たとえば、社会の最底辺グループの出生率を制限するために、援助を打ち切るあるいは未婚の母親が子どもの父親からの養育費を得る権利を廃止する等の提案などが登場するものである。
スウェーデンは、まさにアメリカのこれらの問題を避けるために普遍的なしかも一部所得比例に基づく家族政策を発展させてきたといえる。まず、「子どもの扶養や養育に対する親の責任」を社会の援助によって確立させたことである。長期的に維持可能な出生率と国民間における出生の均等化の両立が家族政策の目的とされてきたし、これからも継続されていくといえよう。子どもをもうける女性の割合は極めて高く、また2−3人が平均子ども数である。しかも、親が労働市場に足場を確立し、子どもの扶養が十分できる時点で子どもがもうけられている。離婚などによる一人親の場合にも、子どもの扶養責任が親に(社会の援助によるにしても)課せられることである。統計によれば、離婚を経験する子ども(親の家から独立する以前に離婚を経験する子どもは約30%)は多くなってきているが、離婚率の増加はスウェーデン特有の現象ではなく先進国すべてにいえることである。しかし、一人親の就労率は他の親と比べて著しく異ならないことが指摘される(Socialdepartmentet,1995)。
スウェーデンの家族政策は、国際的比較からみて、低い子どもの貧困化や高い男女平等が示すように、その目的達成を十分行なっていると評価される(Wennemo,1996)。
出生率の高さを第一次的な目的にしてこなかったスウェーデンの家族政策から学ぶことは、出生率問題は他の家族政策の目的、子どもの経済水準と発達環境、男女平等と関連させていることの重要性であろう。出生率が高くても、親の経済的自立による扶養責任を減少させ、核家族の解消に導くことは決して良い福祉国家政策とはいえないであろう(Wennemo,1996)。今日の社会において、妥当な出生率と子どもの均等で良い発達条件の両方を保持するには、子どもに対する男女両方の親の責任を明確にし確立することが重要である。ただし、親としての経済的責任がだれにでも果たせるように社会の援助が当然必要とされるものである。

 

 

 

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